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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第70章          

 粘膜を擦り合せることで生まれる甘い刺激に、ヴィヴィの鼓動が早鐘を打ち始める。

 それが密着した胸から伝わったかのように、匠海がヴィヴィの左胸にそっと触れてきた。

 幾重も重ねた着物の上からでも、やはり恥ずかしい。

 唇を離したヴィヴィが、匠海を見上げる。

「だめ……触っちゃ……」

 目の下を赤く染めてそう恥ずかしそうに言い募るヴィヴィに、匠海がその耳元で「どうして?」と掠れた声で訊いてくる。

 そんな欲情したような匠海の声一つにも、ヴィヴィはぴくりと華奢な肩を震わせる。

「い、五十嵐、来ちゃうし……。ヴィヴィ、クリスと勉強しなきゃ……」

 そう正論を言ったヴィヴィに、匠海は拗ねた様な顔をして見せる。

「ふうん……。俺とキスしながら、他の男の事、考えてたんだ?」

「ち、違うよ……?」

(ヴィヴィがそんなこと、出来る訳ないでしょう……?)

 焦って匠海の着物の襟に縋り付いたヴィヴィに、兄はくすりと笑う。

「冗談……。着物姿のヴィクトリア、とても綺麗だから、近くで見たいなと思って……嫌だった?」

「――っ まさかっ とっても嬉しいっ」

 兄のその言葉に感激したヴィヴィは、破顔した。

(綺麗ってっ! 綺麗って、初めて言われた……っ!?)

 匠海はヴィヴィの纏め髪をした頭を撫でると、ベッドに腰掛けた。

 房付きの羽織紐を解き、膝丈の羽織を脱いだ匠海は、着物の合わせを寛げて膝を開いた。

「おいで、ヴィクトリア」

「……えっちな事、しない……?」

 おずおずとそう確認してくるヴィヴィに、匠海は「しないよ」と笑う。

「去年の着物も綺麗だったな。浅葱(あさぎ)色のやつ――」

(うそ……っ 去年の着物なんて、覚えててくれたんだ……)

 昨年の元日に着せて貰った、緑がかった空色の着物を思い出し、ヴィヴィの胸がきゅうと締め付けられる。

「嬉しい……っ 覚えててくれたんだ?」

 まさかそんな事を言って貰えるとは、思いもしなかったヴィヴィが、灰色の瞳を潤ませながら匠海の首に抱き着いた。

 そんなヴィヴィをひょいと抱き上げた匠海は、自分の股の間に横向きに妹を座らせる。

 妹が小さい頃からずっと、膝の間に座らせて甘やかしてくれる匠海に、ヴィヴィは幸せに満ち足りた顔で兄を見つめた。

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