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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第70章          

「ヴィヴィ……遅い……」

 シャワーを浴びてバスルームから出てきたヴィヴィを待っていたのは、白いソファーに腰かけたクリスだった。

「え……? あ、もう11時? ごめんなさい~」

 白石のマントルピースの上に置かれた時計を見て、ヴィヴィは顔の前で両手を合わせる。

 JAZZは10時前には終わっていたので、もう1時間もクリスを待たせていたのだ。

「許しません……お仕置きです……おいで……」

 そう無表情で言って両掌を胸の前で開いて見せたクリスに、ヴィヴィが「ひっ!?」と悲鳴を上げる。

 『脇腹くすぐりの刑』。

 勉強中に寝た時や、さぼった時に執行されるそのお仕置きに、くすぐったがりのヴィヴィは後ずさりした。

 すかさず立ち上がってヴィヴィを捕まえたクリスは、ひょいとその躰を抱き上げると、自分のリビングへと運び入れた。

「い~や~っ!」

 クリスは小さな頃から、何故かこそばすのが異常に上手い。

 それを身をもって知っているヴィヴィは、クリスの腕の中で死にそうな悲鳴を上げる。

 紺色の大きなソファーにぽいと放られたヴィヴィは、その上で自分の体を腕で抱きしめ、襲い来る『脇腹くすぐりの刑』に備えた。

 ぎゅっと瞼をつむり身を固くしたヴィヴィだったが、クリスが肩に触れてきたと思った瞬間、何故か全身を抱きしめられていた。

「……え……?」

 驚いて瞳を見開いたヴィヴィの視線の先、自分の前に身を横たえたクリスが、心配そうに自分の顔を見つめていた。

「ヴィヴィ、なんか、顔色悪いよ、最近……」

「え……? く、クリス……?」

 まさかそんな展開になるとは思わず、ヴィヴィは驚きで目を瞬かす。

「ちゃんと、寝てる? 休めてる……?」

 そう尋ねながら目の下の薄い皮膚を指で触れてくるクリスに、何故がヴィヴィの心がずきっと痛んだ。

「う、うん……」

「アスリートは、休むのも仕事のうち、だからね……?」

「……うん……」

 クリスのその正論に、ヴィヴィは微かに目を伏せて小さく頷いた。

 自分に腕枕をしながら瞼を閉じたクリスに、ヴィヴィは小さく尋ねる。

「クリス……勉強しないの……?」

「今は休息時間……。リンクから戻って。夕食取ったら、みっちり3時間勉強するから、そのつもりで……」

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