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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第71章              

 1月2日。

 暗い寝室の中央、据えられたキングサイズのベッドの上には、こんもりとした山が出来ていた。
 
 その山の正体――黒い羽根布団を頭から被ったヴィヴィは、抜けるほど白い両脚の間に散らばる、年賀状とカードを見下ろしていた。

 昨夜その上で眠ってしまったせいで、そのほとんどに浅い折り目が付いていた。

(帰って、来なかったんだ……)

 灰色の瞳は瞬きひとつせず、ぼうと年賀状に注がれていた。




     『年末年始……、毎日、抱かせろよ?』

     『俺がこれくらいで満足してると思ってるのか?

      毎日ヴィクトリアのエッチな顔、見たいんだぞ?』




「嘘、吐き……」

 そうぽつりと零してから、頭の中でその言葉を否定する。

(違うか……午前中、着物で抱かれたか……)

 ヴィヴィの薄い唇から、ふぅと細い息が漏れる。

 両手で年賀状を掻き集めようと伸ばしたヴィヴィは、その指の先が汚れていることに気づき、ふと手を止めた。

 少し白く粉をふいた、粘着質なそれ。

「………………」

 ヴィヴィは何の躊躇もなく、その指をシーツに擦り付けた。

 黒い布の上に、それが指の形でこびり付き、徐々に水分を失い白く浮かび上がる。

 今度こそ年賀状を拾い集めたヴィヴィは、ベッドの隅に放っていたナイトウェアを纏い、匠海の寝室から出た。

 早朝、5:30。

 リンクへ行く支度を終えたヴィヴィは、スケート靴とバッグを持ち、3階から玄関ホールのある1階まで階段を下りて行く。

 いつもより長い時間眠れたので、身体が軽い。

 そして、心も軽い。

「………………」

(ヴィヴィ……お兄ちゃんが帰って来なかったことに、心のどこかで、ホッとしてる……)

 昨夜はおそらく、『鞭』を与えられる筈だった。

 匠海の欲望と一緒に、『許されぬ罪』をその身に背負おう。

 そう決心したのにも関わらず、まだそんな甘い事を考えてしまう自分に、ヴィヴィは心底嫌気がさした。

 少し重くなった足取りで階段を下り、中1階に差し掛かったところ、玄関ホールの大きな扉が開かれた。

「お帰りなさいませ、匠海様」

 その五十嵐の出迎えの声に続き、黒いコートを纏った匠海が、扉の向こうから現れた。

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