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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第71章
「ああ、ただいま。悪い、五十嵐……車、片しといて」
そう言って、車寄せに放置したBMWをちらりと振り返った匠海に、五十嵐が「畏まりました」と応え、扉から出ていく。
ヴィヴィがゆっくりと階段を下りていく視線の先、妹を待っていたクリスが、玄関ホールのソファーから腰を上げた。
「おはよう、兄さん。朝帰り……?」
「ああ、ちょっとな……。リンクか? あんまり頑張りすぎるなよ?」
そう言って弟の肩をポンと叩いた匠海に、クリスが「うん。行ってきます……」と答えた。
階段を降り切ったヴィヴィは、真っ直ぐに二人の兄のほうへと歩いていく。
「ああ、おはよう、ヴィクトリア」
妹に気付き視線を寄越した匠海に、ヴィヴィはふわりと微笑む。
「おはよう、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
弟にするのと同じく肩をポンと叩かれたヴィヴィは、クリスと控えていた朝比奈に朝の挨拶をすると、待たせていた車に乗り込み、リンクへと向かった。
入念にストレッチを行い、サブコーチに付いて、スケーティングやエレメンツの指導を受ける。
朝比奈の用意してくれた朝食をカフェで取ると、ジュリアンにSPとFPを見て貰う。
クリスのSPを滑り終え、ヴィヴィがSPを滑ってみせる。
二人とも特に大きなミスもなく、ジュリアンからも特に目立った指示も無い。
クリスのFPもいつも通り安定した滑りで、ヴィヴィも入れ替わりにリンク中央に立つ。
FP『眠れる森の美女』の音楽と共に、ふんわりとした微笑みが、ヴィヴィのその小さな顔に現れる。
そこにいるのは、純粋で可憐、誰からも愛される、全く非の打ちどころのないオーロラ姫。
アクセルジャンプを始め、全てのエレメンツが見事にはまっていく。
もうシーズンも、折り返し地点を過ぎている。
アクセルも安定した今、ヴィヴィには不安などない。