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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第71章              

 演技後半に入り、曲が変わる。

 バレエの要素を取り入れた、ジャッジにも観客にも好評価な振付。

 夢見るようにうっとりとした表情で、踊ってみせるヴィヴィの胸の内には、もはや猜疑心しか無かった。

 玄関ホールで兄とすれ違った時に感じた、嗅ぎ慣れない香水の香り。

 明らかに一睡もしていない顔つき。

 何処に泊まったんだろう。

 誰と過ごしたんだろう。

 スピンを回りきったヴィヴィの瞳が、ふっと細められる。

 どういう風に抱いたんだろう。

 きっとその女とは、甘い口付けも優しい睦言も交わし、時間を掛けて解し、たっぷり準備してから挿入して……。

 もしかしたら愛なんかも囁いたりして、一晩中、何度も何度も色んな形で愛し合って……。

 その女は、まだ子供でしかない自分の躰とは比べものにもならない成熟した躰で、兄を満足させたのだろうか。

 自分は奥を突かれると痛がるし、兄のものを口で愛することも許されていない。

 ステップを踏み終えたヴィヴィが、ふわりと高いバレエジャンプを跳びあがる。




 その女の中にも、自分と同じように、出したのだろうか――?

 その女が、兄に『喜び』を与えているのだろうか――?




 フィニッシュポーズを取ったヴィヴィの顔には、醜い嫉妬に駆られる女の貌しか浮かんでいなかった。

 息を整えながら戻ってくるヴィヴィに、ジュリアンがべしっとフェンスの上を叩き、憤りを露わにする。

「なんっっっって顔して、滑ってんのよ、ヴィヴィっ!!

 『わ~い♡ 4人の王子にモテモテよ、私。ウフウフッ!

  薔薇をプレゼントされちゃった~! 

  未来の私の旦那様は、だ・れ・に・しようかしら? キャハハハッ!』
 
 でしょ――っ!?」

 以前、娘が口にした言葉を一字一句違えず、しかも口の前に両拳を添えて再現して見せたジュリアンに、ヴィヴィは真顔で返す。

「でしたね。心の鍛錬が足りませんでした」

 そんなヴィヴィに、「そこ、突っ込まね~のかよ……」とサブコーチが小声で突っ込む。 

「分かればよしっ。もう一回! ジャンプはシングルで、ランスルーっ!」

「はい」









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