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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第71章              

 L字型のシートに匠海、ヴィヴィ、クリスの順に座った3人は、しばらく他愛もない話をしていたのだが、先程からあくびばかりしていた双子は、いつの間にかうとうとしていた。

 ヴィヴィは数分うとうとしただけですっきりしたのだが、クリスは本格的に眠いらしく、妹の肩に体を預けて寝入っていた。

「クリス、おいで……」

 耳元でそう小さく囁いたヴィヴィは、クリスの肩を支えながら、自分の白いコートの太ももに双子の兄の頭を乗せ、膝枕した。

「クリスも結構、疲れてるな?」

 匠海が少し心配そうに、熟睡するクリスの寝顔を見つめる。

「うん。今日、何本も通し稽古したし……。クリスはヴィヴィの勉強のスケジュールとかまで、考えてくれてるから……」

「それは、ヴィヴィも、だろう?」

 小さな声でそう呟く匠海に、ヴィヴィがクリスの顔へと落していた視線を上げる。

「え……?」

「ヴィヴィも、通し……、同じ回数、したんじゃないのか?」

「ああ……、ヴィヴィは、こう見えて体力あるんだよ? それに昨日は――」

 匠海の指摘に、微笑みながら答えたヴィヴィは、そこでふと言葉を途切らせた。

「……なに?」

「ううん、なんでもない……」

 そう言って笑ったヴィヴィは、また視線をクリスへと落とし、右手でその金色の髪を透いた。

 そのあどけない寝顔に、笑みを深めたヴィヴィの瞳が、徐々に曇り始める。

(昨日は、お兄ちゃんに抱かれなかったから、ぐっすり眠れたし……。

 て言うか、お兄ちゃんのほうが寝不足なんじゃないの――?) 

 そう思ってしまった途端、ヴィヴィの薄い胸の奥は、数時間前までの自分に引き戻される。

「………………」

(昨日はどこに泊まったの?

 誰と過ごしたの?

 ヴィヴィ以外に、躰の関係がある女性は何人いるの?

 英国にもそういう女性がいるの?

 お兄ちゃんは一体、誰が一番気に入っているの?

 ヴィヴィは、何人中の何番目――)

 昏く淀み切っていたヴィヴィの灰色の双眸が、ふっと揺らぐ。

 陰鬱な思考を断ち切らせるかの如く、突如もたらされたのは、大きくて暖かな掌の感触。

 すっと視線だけをそこに移すと、黒皮のシートに付いていた自分の左の掌を、匠海が上から覆っていた。

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