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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第71章              

「厭らしい奴だな」

「………………」

 どう返すのが正解なのかわからず、ヴィヴィは困ったように笑う。

 そんな妹から視線を逸らせた匠海は、なぜかベッドから降りると、寝室の奥のウォークインクローゼットへと入っていった。

 すぐに出てきた匠海が手にしているものを目にし、ヴィヴィの小さな顔から微笑みが消える。

「お兄ちゃん……ヴィヴィ、こんな事しなくても、逃げないよ?」

 匠海は藍色のネクタイでヴィヴィの両腕を縛ると、満足そうに妹の躰を一歩引いて見下ろしてくる。

「ああ、そうだろうな。お前、俺のこと大好きだしな」

「うん……」

「いいんだこれは、俺が興奮するだけだから」

 ヴィヴィの瞳がふるりと震える。

「………………」

(もう、普通にヴィヴィを抱いたんじゃ、興奮しないんだ……)

 薄い胸がきしりと軋む音がしたが、ヴィヴィは聞こえないふりをした。

(忘れるな。今の自分は『人形』。

 そして思い出せ。与えられた『飴』の味を――)

 瞼を閉じてそう自分に言い聞かせていたヴィヴィに、匠海が続ける。

「ヴィクトリア。今朝、帰宅して寝ようと思ったら、ベッドが汚れていた」

「……――っ」

 はっと瞼を上げたヴィヴィの視線の先、匠海が無表情で自分を見ていた。

「白い指の跡……自分で慰めたのか?」

 何の抑揚もないその匠海の声に、ヴィヴィは恥ずかしそうに微笑んでみせる。

「うん……ヴィヴィ、お兄ちゃんが帰って来たら、すぐ出来るように準備――」

「ふ……っ、厭らしい子になったものだな。ダッドもマムも、愛娘がここまで堕ちたと知ったら、悲しむだろうな」

 妹の言葉を断ち切るようにそう詰った匠海に、ヴィヴィは文字通り固まった。




   (……違う……。お兄ちゃんならきっと、褒めてくれる……。
  
    お兄ちゃんなら「一人で準備出来る様に、なったんだね? 

    いい子だ。すぐに入れてあげよう」って褒めてくれるはず……)




「……ごめん、なさい」

 掠れた声でそう謝るヴィヴィの小さな顔から、微笑みが消えた。

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