この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第72章             

 成長してないのだと思う、自分の心は、その頃から。

 だって、今でも抱き付きたくなる、この大きな背中に。

 セックスとか、そういう事とは無関係に、ただただ、縋り付いていたい。

「ヴィクトリア……、弾きにくい……」

 曲を奏でながら、静かにそう呟く匠海の声で、ヴィヴィはいつの間にか、自分が兄の背中に抱き付いているのに気付いた。

 両腕を匠海の首に緩く巻き付け、小さな胸も平らな腹も、ぴったりと兄の背中にくっ付けて。

 高い鼻を兄の耳に押し付けるようにして甘えたヴィヴィは、その下の唇で囁いた。

「……このまま、弾いて……」

(お兄ちゃんの中の『喜び』を、ヴィヴィに、分けて……)

「困った子だ……」

 そう呟いて苦笑した匠海は、それでも5分ほどのその曲を、妹に抱き付かれたまま弾いてくれた。

 最後の低く深い音を鳴らせた匠海の指が、白い鍵盤の上で止まる。

(終わっちゃった……)

 ヴィヴィは残念に思いながら、兄の首に巻きつけていた両腕を解こうとしたが、その腕は匠海によって掴まれて。

「この曲はドビュッシーが、恋人のエンマ・バルダックと訪れた、ジャージー島という場所で作曲された。恋をする喜びが素直に表された名曲――だろう?」

 ヴィヴィは、匠海が声を発するたびに震える咽喉の感触を、布越しに感じていた。

「……うん……」

 静かに頷いたヴィヴィを、前を向いたままだった匠海が、首だけで振り返って見つめてくる。

「つまり……、ヴィクトリア、セックスしようか?」

「…………へ?」

 ヴィヴィは目の前の匠海の灰色の瞳を見つめながら、間抜けな返事を返す。

(な、なんで……?)

 この話の流れで、どうしてそこに結論が導かれるのか、ヴィヴィには全く理解できない。

「お前、知らないのか? ドビュッシーは草稿に、いけしゃあしゃあと『この小節は、これを書き取らせてくれた、私の可愛いバルダック夫人によるものです』と書き留めている。つまり――」

 そこで言葉を区切った匠海は、ヴィヴィの耳元に唇を寄せ、囁いた。

「エンマとセックスした気持ちよさ、を表現しているんだよ、この曲は――」

「……――っ きょっ、曲解すぎるよっ!」



※ 曲解:物事や相手の言動などを素直に受け取らないで、
     ねじまげて解釈すること。
/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ