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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第72章
ヴィヴィは、ばっと匠海から顔を離すと、そう突っ込む。
そんなぶっ飛んだ曲の解釈は、聞いた事がない。
「そうか? 恋をする『喜び』の中にはもちろん、愛し合う者同士での性行為の『喜び』、も含まれているだろう?」
そう言ってにやりと嗤った匠海に、ヴィヴィは唇を尖らせる。
「……お兄ちゃんの『恋』は、それが占める割合、とっても大きそう……」
「ふ……っ。言うようになったな? ――で、するのか? しないのか?」
妹にそう選択を迫りながらも、匠海のその顔には自信が満ち溢れていた。
ヴィヴィは匠海から目を離すと、防音室の扉のほうへとすっと視線をやる。
防音扉特有の細長いガラス窓の先に、誰もいないのを確認すると、また匠海に視線を戻す。
「……えっち……」
そう拗ねたように小さく囁いて、匠海の形のいい唇に吸い付いた。
静かな防音室に、ちゅっと可愛らしいリップ音が下りる。
(ヴィヴィが断る訳無いって、分かってて、聞かないで……)
「お前は本当に可愛いな、ヴィクトリア……」
そう言って苦笑した匠海は、掴んでいた妹の腕を離すと、長椅子から立ち上がった。
「ね……、もう一回だけ、弾いてもいい?」
ヴィヴィはそう言って、匠海を見上げる。
「ああ、もちろんだよ。でも、ちゃんと思い出しながら弾くんだよ?」
「え……? 何を……?」
ヴィヴィは何の事か分からず、こてと首を傾げる。
そんな妹のまだ丸みの残る頬をさらりと撫でた匠海は、その目と鼻の先でふっと笑う。
「俺とのセックス」
ヴィヴィの躰がびくりと、大きく震えた。
(―――っ そんなの思い起こしながら、弾けるか~~っ!!)
心の中でそう盛大に突っ込んだヴィヴィは、匠海を無視してピアノの前に腰かけた。
すっと背筋を伸ばすと、再度『喜びの島』を弾き始める。
先ほど思い浮かべた、自分に『喜び』を与えてくれるもの達の中に、今度は(しょうがなく)匠海との交わりを含める。
思い浮かべたのは、匠海が帰国した日――聖夜のセックス。
さんざん焦らされはしたけれど、あの時の自分は本当に幸せだった。
匠海は12月頭にドイツでヴィヴィを抱いてから、誰も抱いていないと言ってくれたし、フィギュアの衣装で抱いたり、『鞭』を与えたり、そういう事もまだ無かった。