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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第72章             

「おやすみなさい」

 ヴィヴィの挨拶に目礼した五十嵐は、静かに退室した。

「ヴィクトリア、乾杯しよう。今日で最後だからな。ディナーも一緒に出来なかったし、少しゆっくりしよう?」

 匠海はそう言うと、自分のグラスをヴィヴィのものにチンと合わせた。

「……――っ うんっ かんぱ~い!」

(なんか、嬉しい……。えっち以外でも、こうやって二人の時間、取ってくれるの……)

 ヴィヴィははにかみながら、黒いストローに口を付ける。

「旨い?」

「うん、美味しい~。飲んでみる?」

 にっこりしたヴィヴィの薄い唇を、匠海が指先で触れてくる。

「口移しなら」

「だ、駄目だよ……、り、リビングだもん」

 鍵を締めている寝室ならまだしも、まだ1時前なので、誰かが訪ねてくる恐れがあった。

「じゃあ、鍵締めてきて?」

「え? う、うん……」

 ヴィヴィは立ち上がると、言われるがまま、廊下とリビングの間の扉を施錠した。

「ほら、頂戴?」

 ソファーに戻ってきたヴィヴィに、匠海が催促してくる。

 ヴィヴィはストローを指先で除けて、グラスに直接口を付ける。

 兄を振り返ると、なんだかとても楽しそうに自分を見つめている。

 ヴィヴィは「もしや遊ばれてる?」と心の中で思いながらも、兄の頬に手を添え、自分の唇を押し付けた。

 ヴィヴィが与えた物をこくりと嚥下する音が聞こえ、唇を離そうとしたが、匠海にぺろぺろと唇を舐められた。

「ん……っ」

 くすぐったさに、ヴィヴィのもふもふに包まれた肩が上がる。

 やっと舐めるのをやめた匠海は、ぼそりと呟いた。 

「……甘い」

「ジュースだもん」

「違う、お前の唇がだよ、ヴィクトリア」

「――っ えっち……っ」

 ヴィヴィは頬を染め、匠海を可愛く睨んだ。

 苦笑した匠海から、水滴がぽたりと落ちてくる。

「お兄ちゃん、髪、濡れてるよ……?」

「拭いて?」

 そう言って頭をヴィヴィのほうへ傾けてきた匠海に、ヴィヴィが笑う。

「ふふ。なんか、今日のお兄ちゃんは、可愛い……」

 ソファーの上に正座し、首に掛けられていた黒いタオルで、濡れた髪を拭うヴィヴィに、匠海がタオルの隙間から眉を眇めてみせる。

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