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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第72章             

「ヴィクトリアっ」

 苦しそうに囁かれるその声に、心が震える。

 そうだよ、今、貴方を受け止めているのは、私。

 間違わないで。

 見失わないで。

 傍にいて。

 両膝の裏に入れられていた手が抜き取られ、自分の腰が掴まれ、円を描くように掻き回される。

「お兄、ちゃんっ」

 掠れ始めた喘ぎの合間に、兄を呼べば、こちらを見つめ、愛おしそうに微笑んでくれる。

 だから離れられない。

 拒めない。

 自分の心は簡単に、あの日の幼い自分に引き戻される。

 14歳の夏、兄を愛していると気づいた、あの日の自分に――。

 力強く掴まれていた腰から両手が離され、兄に必死にしがみ付いていた自分の両腕も解かれ。

 気づいた時には、自分の両肩を背中から這わされた兄の手が掴んでおり、兄から離されてしまった肌を、すっと冷たい空気が凪いだ。

 徐々に兄から離れていく自分の躰。

 兄の打ち込んでくる角度が変わり、新たな刺激が生まれ、従順な自分の膣内は喜んでいる。

 さっきまであんなに、隙間なくぴったりと触れ合っていたのに。

 あんなに、まるで一つの塊のようにまぐわっていたのに。

 胸の奥から入り始めた亀裂が、ぴし、ぴしりと、硬い音を立てながら、拡がっていく。

 そして、その亀裂の奥に待ち受ける仄暗い奈落の底に、ヴィヴィは「ひっ」と悲鳴を上げた。

「――っ!! 離れちゃ、いやっ」

 ヴィヴィの細い両腕が、震えながら匠海に助けを求める。

「ちゃんと、可愛らしい、ヴィクトリアの姿、見てるよっ もっと気持ち良く、なって欲しいんだっ」

 そう宥める様に囁きながら突き上げてくる匠海に、ヴィヴィの小さな顔がくしゃりと歪んだ。

「やぁっ!? お兄ちゃん、離さないで――っ」

「ヴィクトリアっ!? どうした……?」

 ヴィヴィの尋常じゃない震え具合に、匠海が腰を止めて見下ろしてくる。

「は、離さ、ないで……っ!」

 必死に兄を見上げるヴィヴィの瞳には、透明な涙が零れ落ちんばかりに盛り上がっていた。

「―――っ 馬鹿、離してなんかやるもんかっ」

 何故かとても苦しそうに顔を歪めた匠海が、しならせていたヴィヴィの上半身を引き上げ、その胸に抱き込んだ。

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