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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第72章
全身を包み込む、匠海の温かい熱。
しっかりと抱き留めてくれる、逞しい両腕。
自分の薄い胸に触れる、思った以上に早い兄の鼓動。
そして、少し震えながら、自分の肌に食い込んでいる、匠海の指先。
それら全てにくるまれて、数分経った頃、ようやくヴィヴィは言葉を口にした。
「ごめん、なさい……、我が儘、言って……っ」
ヴィヴィは匠海の肩に顔をうずめ、噛み殺した声で謝罪する。
こんな事をしていたら、兄は今すぐ『鞭』を与えてくるかもしれないのに。
こんな我が儘を続けていたら、いつか愛想を尽かされてしまうかもしれないのに。
そう分かっているのに。
なのにもう、頭も心もぐちゃぐちゃで、ヴィヴィはただただ、目の前の匠海にしがみ付く。
今、心から信じられるのは、
目の前の兄でもなく、
自分でもなく、
この兄の温もりだけ――。
「大丈夫……。大丈夫だよ、ヴィクトリア……」
まだ小さく震え続けるヴィヴィを、匠海は何度もそう繰り返し、あやし続ける。
まるで小さな幼子にする様に、ぽんぽんと優しく叩かれる兄の掌に、ヴィヴィの心がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
兄の背に回していた両腕で恐る恐るしがみ付けば、ぎゅうと強い力で抱きしめ返された。
「ああ……、本当にお前は、手の掛かる可愛い子だ。
いっぱい我が儘を言って、俺を困らせてくれ……」
『今日はいっぱい甘やかす事に決めた』
先ほどそう言った匠海の言葉は、嘘じゃなかったらしい。
どこまでも柔らかく、優しく、温かく甘やかしてくれる今日の兄に、ヴィヴィは無意識に、子供の頃の呼び名で匠海を呼んでいた。
「おにい、ちゃまぁ……っ」
そのどこまでも甘い啼き声の、次に続いた言葉に、匠海はふっと苦笑した。