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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
1月4日。朝8:00。
篠宮邸の玄関ホールには、一家が勢ぞろいしていた。
今日渡英する、長男の匠海を見送るためだ。
「じゃあな、匠海。英国支社に力を入れてくれるのはありがたいが、せっかくの機会だ。英国で学生生活も満喫するんだよ?」
ひしと熱い抱擁をしてくる父グレコリーに、匠海は笑いながら抱き返す。
「あはは、大丈夫だよ、ダッド。寮生活だから、否が応でも周りの学生と揉みくちゃになってるよ」
グレコリーが体を離した途端、ジュリアンがその胸に飛び込む。
「た~く~み~っ! My Sweet Bear! ああ、寂しいわ。また2ヶ月も会えないだなんて。ちゃんと食べて沢山寝るのよ?」
「はいはい。心配性だな、マムは」
ジュリアンの背中をぽんぽんと叩く匠海を見つめながら、ヴィヴィはどうでもいいことを思っていた。
(My Sweet Bear! 私の可愛いクマちゃん……? ヴィヴィはBambi=小鹿ちゃんだから、クリスは何だろ……?)
「あれ、クリスは……?」
匠海が発したその疑問に、ヴィヴィは「ああ……」と反応する。
「クリス、風邪ひいちゃったみたいで……」
そう続けたヴィヴィに、控えていた朝比奈がフォローする。
「今朝からずっと高熱が続き、今も意識が混濁していらっしゃいます」
「え? 大丈夫なのか?」
驚きと心配と両方の感情を、その整った顔に浮かべた匠海は、ヴィヴィのほうを見てくる。
「ヴィヴィも、風邪うつるからって、会わせて貰えなくて……」
「主治医の診断では、風邪と過労とのことです」
朝比奈の返事に、匠海が納得したように頷く。
「過労……。頑張り屋だからな、クリスは。そうか……。宜しく言っといてくれ」
「うん、伝えておくね。 ……って、ひゃっ!?」
突然変な声を出したヴィヴィは、何故か匠海に脇の下に両手を入れられ、ひょいと上に持ち上げられていた。
「ヴィヴィも頑張りすぎるなよ? そして、今度会う時までに、少しは肉付き良くなるってるんだぞ? このガリガリ子ちゃん?」
「な……っ!? ヴィヴィ、ガリガリなんじゃなくて、筋肉はいっぱいあるの~っ!!」
匠海の手の中で手足をバタつかせてそう反論するヴィヴィに、兄は苦笑してそのまま空中で妹を抱きしめた。