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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
「はいはい。じゃあ、3月の世界選手権でね?」
そう言ってヴィヴィを下した匠海は、皆に見送りの挨拶をすると、待たせていた車で空港へと出発していった。
「3月か……、まだ2ヶ月もあるのねぇ……」
ジュリアンのその言葉に、皆一様に頷く。
「さ! 頑張っている匠海に負けないよう、俺達も頑張ろう!」
そう言って笑ったグレコリーは、家族を見渡した。
ヴィヴィは頷いて、リンクへと向かう用意をしに、3階の私室へ続く階段を登り始める。
『ヴィクトリア、分かっているね――?
次会う時まで、俺以外を、
お前の気持ちいい“ここ”に入れちゃ、駄目だぞ?』
ふと昨晩の匠海の言葉が脳裏をよぎり、ヴィヴィは階段の中腹で足を止めた。
ゆっくりと振り返ったのは、先程兄が出て行った大きな玄関扉。
(お兄ちゃん、は……? お兄ちゃんは、どうなの……?)
そう知らない女相手に嫉妬しそうになったヴィヴィに、朝比奈が声を掛けてくる。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「ん~ん! 何でもない。さあ、リンクリンク~。あ、朝比奈。クリスの事、よろしくね?」
振り向いてにこりと微笑んだヴィヴィに、朝比奈が恭しく頷いた。
「勿論でございます」
(でも、珍しいな……、クリスが体調を崩すなんて……。まあ、ここ数日、すごく寒かったし、お腹出して寝ちゃったのかな?)
自分と同レベルで、双子の兄が風邪を引いた原因、を思い浮かべたヴィヴィは、ストレッチを済ますとリンクへと向かう。
8日後の1月12日から3日間、スターズ・オン・アイスというショーが控えている。
本来は大阪公演への出演も依頼されていたのだが、受験勉強になるべく専念したいとの理由で、日帰り参加出来る東京公演のみ出演する。
2月6日~11日には、初参戦となる四大陸選手権が、台北で。
そして3月10日~17日には、世界選手権が、英国で開催される。
「ヴィヴィも、体調気を付けよう……」
そう呟いたヴィヴィは、リンクへの自動ドアをくぐった途端、その冷気に首を竦めたのだった。