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エブリデイ
第4章 欲しいの……
※ ※
一か月前、まだ残暑の厳しかった九月の上旬。
突如として帰郷するという夫に同行し、私たちは彼の故郷へと赴くことになった。二人揃って彼の実家に向かうのは、一年振りのことになる。私は今年の正月やお盆にも、彼の両親に顔を見せてはいなかった。
この時に限って私が同行したのには、やはりそれなりの理由があるのだ。一つは、私が手掛けていた有名企業の社内イベントを無事に執り行い、休みを取るのにタイミングが良かったということ。もう一つは、お義父さんが入院したと聞かされたこと。
夫は自分の父親の様子について、私にこの様に話していた。
「電話では、只の風邪だから心配するなって言ってるんだけどね。やっぱり心配だし、行って様子を見てこようと思うんだ。父さんも、もう歳だしね……」
「私も、行った方がいい?」
「無理することはないよ。だけど、顔を見たらきっと喜ぶんじゃないかな」
そう言って微笑んだ彼の顔が、私に共に帰郷することを決断させていた。
温和な夫の性格がそれを物語るように、彼の両親もとても気さくな人柄で私に対してもとても優しく接してくれる。会うのに緊張することもなかった。
だから――つい足が遠のいてしまっている原因は、専ら私の中にこそある。後に思えば既にその頃から、何らかの想いは生じ始めていたのかもしれなかった。