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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「……!」
静かに階段を昇る足音を耳に、僕はベッドから跳ね起きている。カチャリと開いたドアを不意に見やれば、当然の様に木織と視線を重ねることとなり。
バツが悪い想いだけを抱えた僕は、俯いて困った横顔を見せているのだった。
「じゃ、じゃあ……コレ」
思い出したように言う。他にどう言えばいいか、それもわからない。そうして僕がズボンのポケットから出したのは、四つに折られた紙幣――五千円札だった。
「……」
木織は暫くそれを黙って見つめた後、それを僕の手からむしる様に取っている。その時、部屋の中には言葉で言い表せない嫌な空気が広がってゆくのが、よくわかっていた。
だから、耐え兼ねて――僕は、こう言うしかない。
「もう、こんなこと……よそうか」
「どうして?」
「だって……」
その時に覗き込まれていた顔――その表情と眼差しから、僕は出会った頃の想いを脳裏に蘇らせているのだった。