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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「これ――あげる」
と、僕がポケットの中から差し出したのは、当時流行っていたトレーディングカードの――日光を浴びて表面が虹色に光る、レアで特別な一枚だった。
「……いらないの?」
そのカードを物欲しげに眺めてから、彼女は遠慮気味にそう訪ねている。
それに対して――
「ううん」
僕は首を何度か横に振った。それは大事にしていたカードだっだ――けれども。
「でも――あげるよ」
僕は迷うことなくそう答えて、もう一度それをぐっと差し出していた。
「あり、がと……」
それを受け取った時の彼女のはにかんだ笑顔が、僕は何よりも嬉しく感じ。
「ね――おともだちに、なろ」
自然と、そう口にできた。
あの日の僕の幼心は、きっと木織のことを好ましく感じて――。