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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく


「ど……どうって」


 こんな時、あっけらかんとして欲望を口にできるのだとしたら、そういう人はきっと僕より何倍も人生を楽しんでいるのではないか。

 かく言ってる僕は結局、視線を逸らす。

 意識していること、もしかしたらどくどくとした心臓の音さえ聞かれてるんじゃないのかってほどに、取っている態度がわかりやす過ぎて――それが、嫌だ。そんなことを誤魔化す言葉さえ言えない自分が――酷く、情けなくも。

 けれども――そんなことは、まだ全然普通なのだ。そう思うことに未だ、間違いなんかない筈だろう。


 だから僕が本当に困惑するのは、覆い隠していた古傷(もの)が――その顔を表す時。



「黙られても――困るんだけど」


「あ……ごめん」


「フフ……謝られても、困る」


「そ、そうだよ――ねっ!」



 視線を上げた時の、彼女の顔の近さに驚く暇さえなく――重ねられていた、唇――ふっと広がった、女の色香は――。


 ペリペリっ――と覆っていた表皮を剥がしゆく――ように。


 脳裏がとある記憶へのアクセスを可能とすると、僕の心の内側の奥の方ではどす黒い感情の塊が止めどなく広がり始めていった――。


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