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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
色々な感情(もの)を一端、座席の上の網棚に乗せたような錯覚。とりあえず僕は仮初めの落ち着きを取り戻し、まずは木織の話を聞くことにした。
「私があの人を見かけたのは、半月くらい前のこと――」
「……」
話しながら木織は、自然とそのしなやかな指先を僕の指の間へと俄かに差し入れてくる。僕はゆっくりと弱くそれらを挟み、互いの震えが止まるようにと。
「『たまたま通りかかったから、懐かしくてぶらりと立ち寄っちゃった』――近づいた私に気づくと、悪びれた風もなく、そう言ったの」
「……!」
一旦リセットした筈の感情が、どす黒いもので覆われてゆくのがわかった。とりあえず『怒り』――最初に訪れたのは、おそらくそれだ。
だけど――
「『元気?』って訊かれた。それが私に言ってるんじゃないって、すぐにわかったから。私はあの人に『今すぐに、消えて』――と、言った」
「そ、それで……?」
「『アンタに指図される筋合はないから』――そう言って睨んだ。ギラリと勝気な眼差しをしていた。『私の勝手』だって、それは言葉で言わなくっても――その瞳は、私を見下していたの」
木織はそう言いながら、キュッとその薄い唇を――噛む。