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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「いや……いい天気、だなって」
「そう……?」
と、木織が見上げたのは、グレーの雲に覆われた――曇り空だ。
今日はこのまま、二人で過ごしていたい――って、そう言ったら、木織はどんな顔をしてた? ――なんて考えるだけ無駄。
だって――やがて入り込んでいた細い路地は、夜の街――すなわち、歓楽街らしく。
「……」
昼の灯りに晒された怪しげな看板。そんな店に取り囲まれた最中を、スマホで位置を確認しながら、木織は更に進んだ。
その顔には、もう柔らかな笑顔はなくって――いつの間にか腕も組んでなくって。
「此処……」
歓楽街を抜けた処でそれを背するかのように、辺りではひと際――背の高い建物。立ち止まり木織が指差した先には、それがあった。
「――!」
今日の天気のように、くすんだグレーの外壁。古びた一棟のマンションは、僕らの前に立ちはだかっているかの――如く。