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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
おそらく僕らが生まれるずっと前には、既に存在していたであろう。そのマンションのエントランスは狭く、入口の処には管理者が常駐するような小部屋があったが、小窓から覗いても今は誰の姿も確認できない。
「……」
当然、ドラマで見る様なオートロックみたいなシステムもないから。いいんだよね? ――とか思いながらも、通路の先へ進むと角に突き当り、それを曲がるとエレベーターの扉は目の前で。
「……」
僕は考える間もなく『↑』のボタンを押したのだけど、ボタンにはランプが点灯しないから一瞬、このエレベーター自体が故障しているのかと思った。けれど、ひっそりとした中で怪しげにモーターが稼働したような音が聴こえ、どうやら一応は大丈夫のようだった。
「……」
今、エレベーターが一階に降り、その扉が開くまでの、この間。この僕がやけに落ち着いてるように見えたのだとしたら、それは誤解だろう。
さっきは木織を寧ろ、ここまで誘っている。その癖、それは僕が何らかの覚悟を決めたからではなかった。