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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「落ち着いて――さ、ここにしがんで。ゆっくりでいいから、大きく息を吸って」
僕はなんとか、木織の言葉に従う。
「くはっ…………はあ……はあ……」
フローリングの上に両手を着き、まるでカエルみたいにしゃがみ込んでいる。木織の言う通り何度も深く息を吸い込むけれど、まだまだ息苦しくて堪らない。吐き出しそうになるのを、それでも必死に我慢していた。
それなのに不思議と頭の中は冷静に、今の状況を何処か俯瞰してゆくように。今のこの自分のことを、誰よりも惨めなのだと――それは正しく、わかりきっている、ようだった。
だから、こんな僕のことなんて「もう、ほっといてよ」と願うのに。
それなのに、彼女は――
「や、やめて――!」
「いいから――どきなっ!」
「きゃっ――!?」
寄り添ってくれていた木織が、突き飛ばされていた。僕は乱暴に髪の毛を、派手な色のネールの五本の指で掴まれて、強引に上を向くようにされた。
額が着くくらい顔と顔を近づけると、彼女は今までより低い声で――言う。
「勝手に被害者ぶってんの――気に入らねえ、ってんだよ」
「え……?」
「コレ、見ろよ――あん時、お前が暴れた――その結果をなぁ」
そう言いながら彼女は「あ――」と口を開けて、僕の髪の毛を掴んでるのと反対の手の指をその中へ――。
すると――
「――!?」
真っ白な前歯の四本が纏めて、紅い歯茎から――かぱっと音を立て、外れた。