この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「どフだよ……わらフェんだろ……このかホ?」
前歯のない顔をじっくり見せつけて、彼女はゴミでも捨てるように僕の髪を――ポイッと放した。
「うう……」
僕は床に這いつくばり、それでも必死に彼女を見上げる。
再び歯を口の中に戻すと、彼女はさっきまでより静かに語り始めていた。
「こんな安い差し歯じゃなくて、インプラントだっけ? せめてそれにしたいんだけど。飯は不味いし、商売にも影響するんだよね……」
商売って……? そう見上げた顔に気づき、彼女は答える。
「此処に来る前、通らなかったか? ――繁華街に並んでる、ピンクの看板の店」
「――!?」
「そう――ピンサロ嬢ってわけ」
事も無げにそう話すと、その視線は部屋の壁の方へ――ハンガーに掛けられている、濃紺のダブルのスーツを見つめた。
「ヤクザの下っ端の、その女なんて――そのくらいが、お似合いだろ?」
自嘲したように笑い、しかし刹那、真顔となり。
「あの夜から始まった――転落の人生。それは全部――」
冷め切った目をして――彼女は僕に言った。
「――お前のせい、なんだよ」