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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
僕の言ったことがどれだけ彼女に伝わっていたのか、それはまるでわからなかった。僕にした処で長く考えた末に導いた結論ではなく。ぶつかり弾けて散った火花のように、それは突然すぎる発想だ。
そして当然ながら、僕の傷がそれだけのことで消えないことも知ってる。それは今を「転落の人生」と言った、彼女にしてみても同じことなのだろう。
それでも、ほんの些細な――小さな始まりの、そのきっかけにはできるような気がしている。
そして、それはカタンと床で音を鳴らしたナイフが、なんとなく報せてくれていたのだ。その証拠に――
「ハッ――下らない。これ以上、ガキの戯言に付き合ってられっか」
彼女は撫でつけた金髪の髪で左目を隠すような仕草をして、吐き捨てるようにこう言ったのだ――けれども。
「もう、帰れよ。そしたら――二度と来んな」
その瞬間、最期に僕を見据えたその右の瞳――。
「……!」
そこから一筋、流れ出していた涙を――
彼女は――隠そうとは、していなかった。