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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
※ ※
電車で住み慣れた街に帰る。駅から二人の家までの道中で、僕と木織はどちらからともなく小さな公園に足を運んでいた。
家の近所にある、昔よく遊んだ場所だ。
なんとなく並んでブランコに腰掛け、心地よさそうに斜陽を浴びている、その横顔にふと訊ねている。
「木織はさ――こうなると思ってたから――今日、僕を?」
すると木織は艶やかな黒髪を揺らすように、首を振った。
「まさか。わかるわけないでしょう? あんなの」
「そ、そうだよね……」
僕は何故だか少し照れて、頭を掻く。
「言ったでしょ。私はとても個人的な文句を、伝えに行っただけだって」
「え? だけど――」
「うん。結局、言えなかった。だから、それも含めて――私のクレーム処理、してくれる?」
「な、なに……?」
そう言えば木織は、マンションに行く途中で言った。
「お願い……終わった時……その後で……伝えさせて……」
それがずっと気になってた僕は、息を呑んで木織の次の言葉を待つ。けれど――木織が先ず僕に示していたのは、言葉ではなくて。
「――!?」
それは、紐を結びつけてペンダントのように首から下げていた物。木織は自分の胸元から赤い紐を引くと、丸首の襟からそれを取り出して僕に見せた。
「あっ……!」
僕が目を見張ると、木織はくすっと笑って
「わかる?」
「も、もちろん……」