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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
忘れる筈がなかった。
夕陽を浴びても昔のようなキラキラとした光沢はなくて、角は寄れて描かれたイラストも擦れていたけれど、それは間違いなく僕たちが初めて会った時の――想い出の象徴。
僕が木織にあげた――トレーディングカードだった。
「だけど……どうして、こんなものを?」
「悪かったわね、こんなもので」
「あ、いや……変な意味じゃなく」
ツンと顔を背けた木織に、僕は焦るが。
「このカードは、私のお守りなの」
「お守り?」
「そう――受験の日とか、心配事や不安を感じる時は――いつだってこうして、身に着けていたのよ」
そう、だったのか……。僕は電車の中で、胸元に手を当てる木織の姿を思い返していた。
「でも――どうして、そのカードなの?」
「それは、ね――」
木織は少し遠くを見つめるように、そう至る想いを語り始めていた。