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エブリデイ
第3章 意識した瞬間から
このまま抱きしめてしまえばいいのだと、僕は直感してる。何も話してないのに、寺井も嫌がらないような気がした。とても勝手だけど、そうだと思えた。
寺井を起こして、モヤモヤとした気持ちの部分を話そうとすれば、きっと僕は上手くはできないのだろう。その瞳に見据えられ、気後れする自分が手に取るようにわかった。
だから、妄想と現実を隔てる薄っぺらな一枚の膜を破るのは、きっとそうするしかなかった。
なのに――
「……」
じっと、健やかな顔を眺めて数分。
僕は立ち上がるとベッドの上から薄手の毛布を手にして、それを寺井の肩にそっと被せた。
「お疲れ……」
と言った言葉は、優しさという誤魔化しに彩られた、意気地なしの証。
僕は結局、衝動だけでは妄想と現実の狭間を、飛び越えられなかった。
だから――
「――うわっ!」
突如として床に押し倒され、驚いた僕は声を上げる。
この夜を、そのまま終わらせなかったのは――寺井夏美の方だった。