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ブルジョアの愛人
第13章 梅雨冷えとカーディガン
優々と真緒が楽しみにしていたお泊まりの金曜日、樹里は教室の真ん中の席で、中休みだというのにもかかわらず、日直が消し忘れた黒板の文字をノートに書いては消していた。
既にノートは黒ずみ、紙もぐしゃぐしゃになっている。しかし樹里は無表情でそれを続ける。騒々しい教室でひとり静寂を纏いながら。
体育館に行っても、ドッジボールにもサッカーにも鬼ごっこにも入れてもらえない。こうして教室にいても、自宅謹慎があけた下っ端たちでさえ他のグループに寝返って無視する。
つい最近までは樹里が支配していた空間がもはや樹里のものではなくなっているという事実をやっと呑み込めるようになった。慣れとは怖いものである。
しかし莉菜はこの二ヶ月の間、今の樹里のようにキンキン耳に響く同級生の声に苛立ち、怯え、身を縮めていたのだ。だが莉菜に申し訳ないことをしたという感情は全くといっていいほどない。
目が疲れたので、雨に煙る窓の外へ視線を移した。ここ二、三日はずっと雨である。少なくともあと一週間は雨の日が続くはずだ。
「やだ、こっち見られたんだけど」
窓際でお喋りに興じていた派手グループが樹里を見てクスクス笑った。そのグループの中心にいるのは愛海である。樹里はカッとなって俯いた。
屈辱のあまり胸の中で流した涙は、雨水となって窓の外を流れていった。