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ブルジョアの愛人
第23章 幸せは彼へのお礼

ちょうど額の辺りにある肩に頭を預ければ、硬い掌が傷んだ髪を撫でてくれる。義母が娘をお風呂に入れてくれている時間の、儀式のようなものだ。

髪を愛撫する手は首筋を伝って肩へ。顔を上げると、覆い被さるように熱い接吻が降り注ぐ。

莉菜もそれに応じる。愛しさのままに互いの唇を吸い合う。情事は約一時間後。それまで待つための、おまじないのようなものだ。

莉菜から唇を離した。彼はまだ物足りない顔で見つめてくる。

「秀ちゃんに逢えて良かった」

いつもの儀式にはない台詞に一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにまたいつもの顔に戻った。一般でいう「仏頂面」が彼のいつもの顔だ。

「俺も莉菜に逢えて良かった」

「ありがとう」

また目を瞑る。キスの雨はまたやってくる。高い位置にあるうなじに腕をまわすと、莉菜の背中を彼の腕が抱きしめる。

彼の唇が止まった。終わりの合図だ。最後に一度、ゆっくりと唇を吸って唇を離す。

目を開けると、そこには最愛の人がいる。こんなに愛してくれる人も、こんなに愛せる人も、世界中どこを探したって他にいない。

無骨な指は、頬を伝う涙を何も言わずに拭いてくれる。だから莉菜も、彼の濡れた頬に触れた。

別れの時間を気にする必要のない生活が、確かにここにあった。



―END―



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