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ブルジョアの愛人
第14章 狂器の姿
「だから、誰にも邪魔されない世界で出逢い直そう」
莉菜は反射的に顔を上げた。作り物の世界だと分かっているのに、全身が凍りついてゆく。その言葉の意味を理解するなというように、頭まで。
再びエンジンが掛けられ、アクセルを踏む足元がアップで映される。車は九十度回転してガードレールを向き、少しだけバックした。
女は慌てふためいてシートベルトを外そうとするが、もう遅い。目を見開いてフロントガラスを見ながら、絹を裂いたような声を上げた。
莉菜が目を伏せた瞬間、テレビ画面は歯みがき粉のCMに切り替わった。いやな汗が頭頂部から髪の間を縫うようにして流れてゆく。
服の上からでもはっきりと分かる心臓の運動が、収縮した頭にまで響いていた。リモコンは手汗でじっとりと湿っている。
まるで自分のこれからの運命を見ているようだった。ガードレールに突っ込んだ二人が助かるのか、それとも――先を知りたいと思う反面、知りたくないと拒絶する気持ちもある。
もしも二人が助からなかったら、莉菜も十一歳にして人生を終わらせてしまうような気がしてならないのだ。