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ブルジョアの愛人
第14章 狂器の姿
『今日は大丈夫?』
二十二時をまわった頃、浩晃からメールが届いた。祖父母はもう既に眠っている。莉菜はもぞもぞと布団から這い出た。
例によって淡白な文面からは、先週のことを許してもらえたのかどうかはっきりとは分からない。しかし彼の方から連絡をしてくるということは、逢いたいということなのだろうか。
正直、まだ返事を迷っていた。浩晃のことが好きというのは紛れもない事実。だが、近頃は終わりのないこの関係にうんざりしている。そして、いつまでも都合の良い女でいたくないとも思う。
直接逢って、お別れしよう。はっきりとそう決めた、つもりだった。
『大丈夫だよ』
しかし、そこから先は指が動かない。あと一回ボタンを押せば、浩晃は以前通り午前零時に迎えに来る。そして浩晃のマンションで、情事はせず、本心を伝える。
あの昼のドラマを観る前だったら、浩晃と逢うことぐらいはできたかもしれない。だがドラマとはいえ男の狂気を見てしまった莉菜には、もはや浩晃と逢うことすら難しくなってしまった。
『ごめんなさい 今日も無理です』
素早くメールの文を書き変え、気が変わらぬうちに送信した。
そして激しい後悔が襲ってくる前に携帯電話の電源を切り、布団を被った。