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愛する、三人のケダモノ達。
第1章 三人のケダモノたち。
「伽耶ちゃん、久しぶりだね。」

 朝陽兄さんは爽弥君と愛車で田舎から出てきた。

「こんにちは、朝陽兄さん。爽弥君。」
「…こんにちは。」

 ちょっと、疲れたのか爽弥君は元気がない。

「本当、今回は申し訳なかったね。私も自立してしまえば良いのだけど、冷泉院(れいせんいん)家を継がなくてはならない立場だから。なかなかね。」

 荷物は引越業者にまかせて、リビングでお茶を淹れ三人でくつろぐ。

 朝陽兄さんは背が高くて、爽やかイケメン。少しうるさい前髪を払う仕草や、眼鏡を中指で上げる仕草は昔と変わっていない。

 爽弥君はシャープな目元に、色白の肌。綺麗な雰囲気の少年。遊びに行けばベッドの上で本を読んであげたり、ゲームをしたりしたっけ。

 田舎だから、コンビニなど無くて遊ぶなら近所の神社か小学校の校庭。夏休みは丸々ひと月過ごしたり。それが、ぱったりなくなったのは私が高校生になり、バイトや部活に忙しくなってしまったから。

 志乃おば様の嫁ぎ先って事で、私たち母娘には血も繋がる親戚もなかったし。そこは静かにフェードアウト。

 そんな、話で盛り上がり、午前中から始まった引っ越しも夕方には片付いた。

「夕飯、どうしましょう?やっぱり、引っ越し蕎麦でも用意しますか?」

「あ、いや、ごめんね伽耶ちゃん。私はこれから、出版社の集まりがあるんだ。爽弥と二人で夕飯とって。」

「はい。じゃあ、爽弥君。何にしようか?」

「…なんでもいい。」

 一時間して、朝陽兄さんは家を出て行った。私はお蕎麦と少しの天ぷらを揚げ、夕飯の用意をする。

「お口に合えばいいのだけれど。」

「いただきます。」

 爽弥君は黙々と蕎麦をすすり、天ぷらを食べる。細い身体のわりに、よく食べる。若いからかな…などと、思いながら自分もすする。

「…伽耶さん。」

 爽弥君が箸を置き、こちらをじっと見る。

「僕、二人に譲る気はないから。」
「ん?何を?」

 あ、あれ?なんだろう?
 部屋が気に入らなかったのかな?

「…なんだ、伽耶さん忘れちゃったの?」
「な、なにが?」
「昔、四人で話ししたの忘れたのかな?」

 爽弥君はダイニングテーブルを離れ、私に近寄ってくる。
 身をかがめて、私の顔を覗き込む。
 ニッコリ笑って、一言。

「僕のお嫁さんになってね。」
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