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終わらない夢
第1章 曖昧な夢
日が暮れ、窓からの明かりも頼りなく薄暗い部屋に一時の静かな時間が過ぎていく。
服を整え、離れる事の寂しさにお互い手をとる。
絡めた指先に愛しさを感じる。
「また、会ってくれますか?」
宏哉の声が震えている。
ここで、どうして拒否できるだろうか。
頷き、約束をする。
アパートを出て、またあの陸橋に向かう。
宏哉と身体を重ねた事を肯定するため。
ゆっくりと歩き、陸橋の下にたどり着く。一人の女性が立っていた。
手を合わせ、目をつぶっている。
足元には、白い小さな花束。
同じ学校の保護者と思い、声をかける。
「…あの…。貴史と同じ学校の方ですか?」
我が子の為に祈ってくれている。
その女性は、驚き振り向く。
「あ…。」
まだ、若い女性だった。十代だろうか。長い髪を結び、幼さが残る。
「あの…。」
声をかけると同時に、その女性は困惑した表情を浮かべる。
「…ごめんなさい。」
小さく、力なく発する。
うつむき、持っていたショルダーバッグの紐を握りしめている。手の色が白く、血の気が引いている。
「…私が、悪いんです。」
何の事かわからず、次の言葉を待つ。
「私があの時、我が儘を言ったから…。」
あの時?
「…英輝さんに、電話で会いたいとごねてしまったから…。」
足元がフワフワする。
背中と手に、じめっとした汗が滲み出る。
「あの、日曜日に電話したのは私です。英輝さんに会いたいと思って。英輝さんはこの、陸橋の下で私がかけた携帯に出たんです…。」
貴史が笑う。
英輝が笑う。
私が笑う。
凍りついた笑顔のまま、暗幕が降りる。
「…ただいま。」
誰もいない家に帰り着く。
辺りは既に暗く、夜の気配が部屋に入り込んでいる。
「…麻友子。」
何処をどう、歩いてきたかわからない。
「何度も携帯にかけたんだぞ。何処に行っていたんだ?」
英輝は心配そうに、私の顔を覗き込む。
「麻友子?」
手を伸ばし、私の肩に触れる。
触られたくない。
とっさに身体をひく。
「…知夏。」
夫の顔を見る。
目を見開き、驚いた顔をしている。
「な、なんで…。知夏…を?」
これは怒りでも、悲しみでもない。なんと言う感情だろう。
服を整え、離れる事の寂しさにお互い手をとる。
絡めた指先に愛しさを感じる。
「また、会ってくれますか?」
宏哉の声が震えている。
ここで、どうして拒否できるだろうか。
頷き、約束をする。
アパートを出て、またあの陸橋に向かう。
宏哉と身体を重ねた事を肯定するため。
ゆっくりと歩き、陸橋の下にたどり着く。一人の女性が立っていた。
手を合わせ、目をつぶっている。
足元には、白い小さな花束。
同じ学校の保護者と思い、声をかける。
「…あの…。貴史と同じ学校の方ですか?」
我が子の為に祈ってくれている。
その女性は、驚き振り向く。
「あ…。」
まだ、若い女性だった。十代だろうか。長い髪を結び、幼さが残る。
「あの…。」
声をかけると同時に、その女性は困惑した表情を浮かべる。
「…ごめんなさい。」
小さく、力なく発する。
うつむき、持っていたショルダーバッグの紐を握りしめている。手の色が白く、血の気が引いている。
「…私が、悪いんです。」
何の事かわからず、次の言葉を待つ。
「私があの時、我が儘を言ったから…。」
あの時?
「…英輝さんに、電話で会いたいとごねてしまったから…。」
足元がフワフワする。
背中と手に、じめっとした汗が滲み出る。
「あの、日曜日に電話したのは私です。英輝さんに会いたいと思って。英輝さんはこの、陸橋の下で私がかけた携帯に出たんです…。」
貴史が笑う。
英輝が笑う。
私が笑う。
凍りついた笑顔のまま、暗幕が降りる。
「…ただいま。」
誰もいない家に帰り着く。
辺りは既に暗く、夜の気配が部屋に入り込んでいる。
「…麻友子。」
何処をどう、歩いてきたかわからない。
「何度も携帯にかけたんだぞ。何処に行っていたんだ?」
英輝は心配そうに、私の顔を覗き込む。
「麻友子?」
手を伸ばし、私の肩に触れる。
触られたくない。
とっさに身体をひく。
「…知夏。」
夫の顔を見る。
目を見開き、驚いた顔をしている。
「な、なんで…。知夏…を?」
これは怒りでも、悲しみでもない。なんと言う感情だろう。