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終わらない夢
第1章 曖昧な夢
「磯山先生。お借りしたハンカチは洗ってお返ししますので。」

「いえ、いえ。そんな事、していただかなくても。」

 二人して陸橋を離れ、歩き出す。

 あの場所から離れれば離れるほど、心が軽くなる。

「…そうだ。わたしたいものがあったんですけど…。僕のアパートに来てくれませんか?」

「えっ?」

「あ、変な事はしませんよ?!アパートの外で待っていてくれるだけでいいんです。」

 慌てた様子が面白く、思わず笑ってしまった。

「わかりました。」



 家とは反対側の小さなアパートに着く。

 そこの一階に磯山先生は住んでいる。

「ちょっと、待っていて下さいね。」

 玄関前で待つ。

「あ、お待たせしました。これです。」

 大きな紙袋に、パネルに入った絵が入っている。

 大きな、大きな蝉の絵。

「貴史君の作品です。図工室に飾ってあったのですが、やはりお母さんに渡そうと思いまして。」

 パネルを取りだし、その絵を見る。

 中央に大きな蝉。

 周りには貴史の大好きなオレンジ色の服を着た男の子が、網をもっている。

 そっと、撫でてみる。

 もう、枯れたと思っていた涙が流れた。

 パネルを抱え込み、その場にしゃがみこむ。

「…貴史…。」

「…仲村さん。」




 気がつけば、磯山先生のアパートにあがっていた。

「泣きたいだけ、泣いてください。」

 磯山先生にしがみつき、苦しいほど泣き叫ぶ。

 悲しくて。悲しくて。

 ただ、それを黙って受け入れてくれる人がいる。

 静かに抱きしめられ、さらに涙が溢れる。

「…先生。」

 身体を離し、今の状況に冷静になる。

 顔を上げると、少しだけ困惑した磯山先生がいる。

 視線が熱く絡み合う。

 このまま、沈黙が続いてしまったら後に引き返せない。

 胸の奥の小さな炎が燻る。


「…仲村さん。」

 視線をはずしたのは、磯山先生。

 そう。
 それでいい。

 私には夫がいる。

 私を慰め、癒すのは先生ではない。

 よそよそしく、その場を離れる。

 帰ろうと、紙袋を持ち直し少しだけ乱れた髪を撫でる。

「…あ、あの。」

 ドアに向かい、ノブを回そうとした時手を捕まれる。

「昼。お昼ご飯、一緒にどうですか?」

 先生の手が震えている。

「インスタントラーメンですけど。」
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