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花籠屋敷
第3章 来客の号外
写真で見た長髪の男と、短く7・3に刈り上げた男が一歩も引かずにボールを打ち返している。
得点は笠松義秀が僅差で勝っているらしい…一時間打ち合っているというのに二人の間を行き交うボールはスピードを上げていた。

「すげぇ速い。当たったら痛いよな。野菊これのルールわかる?」

「うーん、枠の中でボールをワンバウンドで打ち返して、相手が取れなかったら1ポイント。4ポイント取ったら1ゲーム終了で交代。六回やって、取ったゲームの数が多い方が勝ち…みたいな感じかな」

「何かややこしいな!兎に角相手に取られないように打ち返せば良いんだな!…うおっ、すっげぇ〜あれ取ったぞ藤丸!義秀が大きく打ち上げた。あたいだったら、あれ叩くね。思いっきりコート手前目掛けて!」

試合を見ながら一人興奮する石楠花は腰の辺りのフェンスに手を掛けガシャガシャと揺らす。野菊は友人とおしゃべりに夢中だった。桔梗は、空高く上がった黄球を見つめた。ゆっくり藤丸側のコーナーへ吸い込まれ、地面に到達した黄球は大きくワンバウンドし、絶好のスマッシュチャンスだ。

走り込んできた藤丸が軽く飛び思い切りラケットを振り下ろす。

「決まった!」
石楠花が身を乗り出す。
その時桔梗は不意に黄球の軌道を見た。黄球は少し此方側斜めへとずれポールにぶつかり、思い掛け無い軌道を描いた。急な黄球の襲来に悲鳴が上がる。
「野菊!危ない!」
桔梗は咄嗟に野菊の前に身体を反り出した。側頭部に黄球が強い打撃を与え、桔梗は頭を押さえる

「んぅっ…っつうぅ…」

桔梗は頭がグラグラした。視界が揺れる。軽い脳震盪だろう。その場に膝を着き揺れが収まるのを待つ

「桔梗大丈夫?」

野菊が心配そうだ…石楠花も不安そうに眺めている

「大丈夫…少し…グラグラするだけ…」

桔梗は頭を少し振って、視界が揺れないか確かめる。大丈夫そうだ。少し辺りを見回した。

「申し訳ねぇ…女の子に怪我させちまって…大丈夫か?」

間近に縞園藤丸がやってきた。写真で見るより男らしい顔は、困った顔で、此方の顔を伺っている。桔梗は首を振り見上げれば、はっきりした口調で答えた。

「大丈夫です。あのっ…心配させてごめんなさい」

其れだけ言うとテニスコートから逃げていく、膠着した空気に耐え切れなかったし、心配を一身に受けるのも居心地が悪かった。


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