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花籠屋敷
第1章 屋敷入りの記憶
そんな市場の外へ、時宗と桔梗は歩いていた。縄で小股でしか歩けない桔梗に歩幅を合わせる時宗。優しさは見せるものの、時宗の片手はしっかりと縄を握っていた。

「君の名前は?…幾つになった?」

おもむろに時宗が口を開く、大分無言のまま歩いて来たのだろう。
市場の喧騒が後ろの方で聞こえる…

「しのぶです…中山忍…年は16です…」

桔梗は切れ切れに答えた。飼い主からの質問という緊張と必死で足を動かしながらのため余裕が無い…

「そうか忍か…良い名前だが色が無いな…瞳も髪も綺麗な黒だ…青光りするくらい…そうだ…君の名前は桔梗だ…今日から桔梗」

片手で時宗は桔梗の髪を掬いあげながら呟く、伸び放題になった髪は日光を青く反射させながら時宗の手をサラサラと流れた。桔梗は自分の髪を女性のように、品定めされる事がむず痒かった、手から逃げるように首を反らした。

程なく無言で歩き市場の入り口へ、黒い馬車が止まり乗り口を開いて運転手が待っていた。

「時宗様お疲れ様です」

「なに、いつもの事だ。それに今日は面白いものも買えた…客が増えるかもしれん」

何気無い会話をしながら時宗は桔梗を馬車に乗せ向かい合うように乗車する。
頭上で、ハッと気合をいれる声と鞭のしたたかに打たれた音を皮切りに馬車が速度を上げていけば、市場は後方へ小さくなり景色があっという間に後方へ流れていく、初めての馬車の中で手持ち無沙汰と気まずさに桔梗は車窓を眺めていた 。

「桔梗…こっちを向いてくれないか?」
時宗は桔梗に話しかけるも、まだ名前に慣れていない桔梗はぼんやり車窓を眺める 。

「桔梗君。こっちを向くんだ」
時宗が再び声をかけ車窓を眺める桔梗の肩をトントンと叩いた。

「ごめんなさい!ぼんやりしてて!」
突然の接触に驚いた桔梗は、驚声を上げて振り向いた。顔を隠す髪の毛を時宗の指が持ち上げ、その顔を露わにする。
整った顔立ちは日焼けで少し浅黒くなり土と殴打痕で茶色と群青と赤が混在していた。

「結構派手に手打ちを受けてるね…でもある程度加減はしたようだ痕には残らないだろう…しかし良い顔だ…挑発的な大きな瞳に柳眉が二つ…涼やかな鼻に…少し厚ぼったい唇が一つ…戻ったら湯を浴びなさい。磨けば光る」
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