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花籠屋敷
第4章 分水嶺
宴会場の中で一瞬音が止まった…視線が集まる…隣の女中と目が合った…桔梗は、今朝聞いた役者に買われた可哀想な女中の話を思い出して冷や汗が背中を伝う…

「ええ、もう春ですから…たらの芽もふきのとうも…美味しい時期です」

沈黙を破るように椿がお客と談話を始める…会場の空気が動き始めた。

「もう、頭は大丈夫なのか?」
藤丸が此方を心配そうに眺める。桔梗は食台の上に箸や茶碗を準備しながら答えた

「はい…大丈夫です。…藤丸様、お茶にされます?お酒にされます?」

桔梗は淡々と仕事を始める
「大丈夫で良かった!じゃあ、お茶で…御飯大盛り」

藤丸の笑顔に桔梗の態度が少し崩れる。好意的な相手を素っ気なくあしらうというのも罪悪感が湧く
桔梗は、罪悪感に縛られぬよう、早足で遠くの準備台へ注文された物を取りに行く。
同じ様に、品を取りに来る女中達の好奇の視線や話し声が聞こえてくる。桔梗は気にしない様に無表情で御飯をよそう

「きっ…桔梗…身買われたのって…藤丸様だったの?」
後ろから野菊が、驚いた表情をしながら近づいて来る。

「……うん…昨日医務室で寝てる時に…藤丸様が来て…札をって… 」

桔梗はそれきり言葉が出なかった。野菊もそれ以上聞けず気まずい沈黙が流れる。

「何かあったら、すぐ話してね。私桔梗の友達だから」

「うん、ありがとう野菊…私行かなきゃ」
野菊の心遣いに少し勇気を貰えた桔梗は藤丸の元に戻ると、御飯を渡しお茶を注いだ。

「お昼も美味しそうだな」

「春の物が手に入る様になって、食台の上も華やかになりました」

「ああ、牛すじは柔らかいし、卵焼きも美味しい。桔梗が作ったやつってあんのかい?」

「私がしたのは天婦羅の盛り付け位で御座います…」

「そっか…でも綺麗だな」

素っ気無い会話を続ける。お互いにあえて的を外す様にどうでも良い話をした。途中空気に耐えられなくなった桔梗は聞きたかった事を口にした

「藤丸様は…私の何が良かったのですか?可愛い女が私以外に沢山いるではありませんか…」
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