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花籠屋敷
第4章 分水嶺
「桔梗、洗い物終わったら大広間のロビーに来て頂戴」

洗い物をしていると肩を叩かれる。椿だった、

「部屋を伝えるから」

それだけ言うと調理場を後にする。桔梗は気が重くなる…部屋とは当然今日の夜使う色部屋の事だ。札付きになると初めて教えてもらえるらしい。

桔梗は洗い物を終えると真っ直ぐ大広間に向かう。
曇天の今日は屋敷の中に人が多い…大広間の周りには談話室以外に、喫茶店や図書室…按摩部屋などお客が時間を使える部屋も多い。

「あれ、あの子よ藤丸様に買われた子」

「どの子?あの紫?」

途中遠くから女中の声がする。桔梗は考えない様にしてロビーの前に進む、ロビーカウンターの中で椿が手招きした。

「入って」

カウンターの中に入り椿の側に来ると、椿は管理室の扉を開く、奥の壁一面に屋敷の見取り図が書いてあり、部屋が色分けされていた。白い枠で囲まれた所は何もないが、色付きの枠の中には鍵が掛けられている。

左右の棚には、見た事もなかったが、そういう時に使われるのであろういやらしい玩具が整理されていた。

「私達が入るのは部屋の確認位よ。身買いしたお客はここで夜を楽しむ部屋を選んでもらってるわ。まあ、そこの棚の中の玩具もそうね。後は薬もあるけど、其れは地下ね、私と同じ組取り女中の竹梅が管理してる。お客が地下へ連れて行く時は覚悟しといて」

桔梗は不安に身体が固くなるのを感じた。椿の顔を見上げる

「大丈夫よ桔梗、今日の部屋は普通の部屋だから。この部屋よ」

不安に見つめる桔梗の肩をなだめる様に撫でると、椿は見取り図二階東側の灰色の枠の中を指差す。桔梗と自分の名前が書かれていた。

「此れから身買いをされた際は、偶に来て部屋の確認だけして置いて頂戴、お客と屋敷の中を迷って時間を無駄にしない様に、話はそれだけよ。後は自由にするといいわ」
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