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花籠屋敷
第4章 分水嶺
管理室を出ると、野菊が待ってくれていた。

「桔梗、喫茶店でお茶でもしようよ」

桔梗はそのまま野菊と大広間の喫茶店に入る。カランと扉を開くと空いているテーブルに二人で腰掛けた。店内はテーブルが5つ程の小さな店内で、奥はガラス張りで綺麗な深緑の山々が見える。
スタッフは二人で、女中のようだが袴では無く、スラックスにシャツとサスペンダーと西洋の装いで接客している。

野菊とコーヒーとショートケーキを頼んだ。

「ここのコーヒーとケーキ美味しいんだ。インスタントじゃなくって豆から挽いてるから!ケーキも手作りなんだよ!数が少ないからなかなか食べれないの」

赤いイチゴの乗ったショートケーキの先端を崩すと一口桔梗は頰張る。控えめな甘さの生クリームが美味しい。
野菊が真剣な顔をする。

「桔梗、少し真面目な話をするね…」

野菊の初めて見る表情に桔梗は驚いた。スプーンを口に運ぶのを止めると野菊の顔を見つめた

「この屋敷で自分のお金を持つ方法は、身買いだけなんだ…給料とかは出ないわ。そもそも私達買われた人間だから、給料を払う義務も無いし…ここの女中さんみたいに、申請すれば屋敷のキャストとして働けるけど、働いたお金も全部屋敷のお金で給料は無いわ。屋敷からは年齢がある程度になれば自由に出られる。残るかどうか決められるわ…まあ、人気があるうちは中々出させて貰えないけど…ごめん、いきなりこんな話しても桔梗困るよね」

困ったように微笑を浮かべもどかしそうに話す野菊に桔梗は理解した事を返した。

「つまり、屋敷で稼ぐには身売りしかなくって、後は全部タダ働き…だから、自分のお金が欲しければ身を売りなさいって事?」

「うん、そういう事……でも私買われた先が此処で良かったって思うんだ。此処は色だけじゃ無くて、宿としても稼いでるから、宿としての稼ぎがしっかりあるから生活するために過酷に身体を売らなくて良いから……酷いんだって…遊廓って…」


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