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花籠屋敷
第4章 分水嶺
「顔がお昼よりキリッとしてるけど、なんかあった?」

藤丸が桔梗の表情を見て微笑する。

「いいえ…ちょっと友人に気合いを入れて貰っただけです。藤丸様夜は呑まれますか?」

「夜は、貰おう」

桔梗は態度を崩さず藤丸に酒を注ぐ。夕餉時の宴会場は一番活気があった。夕餉時位はと酒を注文したり、堅物の客もこっそり女中の札を買ったりする

「藤丸様お昼は何をされていたんですか?」

「笠松の相手探し。あいつ結構堅物でさ、折角何だから遊んでみろよって言うんだけど中々首を縦に振らなくてな。さっき美人な女中さんに札をお願いしてきた所」

そう言って向こうの食台を指差した。相手をしているのは椿だった。

「桔梗ちゃんから見てあの子に堅物の相手をお願いしたのは正解だと思う?」

「ええ、ぴったりだと思います」

椿の酌をぎごちなく受け取る笠松の姿に、親近感を覚える桔梗。自分もお客側でここにいて椿のお酌を受けるのは緊張する気がした。桔梗はふと藤丸に質問する

「歌舞伎とか…役者の世界って…やっぱり、その…男色の方とかいらっしゃるんですか?偶に世間を賑わすじゃないですか…そういう話が…」

「まあ、そうだな。多いぜ…俺も本当に好きなら、男とも遊べる気がする。大事なのは性別云々とかじゃなくて、やっぱりこう……」

「こう?」

「愛でしょ」

藤丸がそんなストレートな答えを出すとは思わず、桔梗は笑ってしまった。

「桔梗ちゃん笑顔可愛いじゃん!笑って!もっと!ほら、愛でしょ!」

面白がっておどける藤丸に桔梗は笑いを堪える。

「んふっ…んふふっ!藤丸様おやめ下さい!降参です!」

桔梗がこれ以上声を上げないように俯いて口元を押さえれば、藤丸はおどけるのを止めた

「いつもそれだけ笑顔でいれば良いのに」

落ち着くと桔梗は素直に緊張を伝える
「粗相が無いようにと思うと…どうしても強張ってしまって…」


「別に、お客さんってノーミスで接客されるのを望んでるんじゃなくて、自分を、理解してもらえる。大切にして貰えるって心地良さ求めてるんじゃね?…何時もそんな固い顔だとお客も不安になるぜ」






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