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花籠屋敷
第1章 屋敷入りの記憶
小屋の中は粗末だが綺麗に整理してある
枝切り鋏、先手鋏、鍬や、鋤、鎌、畑や庭の手入れ道具の他に、首輪、手枷…少し見慣れない用具が所々見える。不思議そうにそれらを眺めていると野菊が鋏を手に少し困った表情をしながら縄を切ってくれた

「ああ…ちょっと普通じゃないよね…あはは…あの〜…あんまり気にしないで」

「うん…わかった」

野菊は鋏を動かしながら、言葉を探していたが、桔梗は二つ返事で野菊の言葉に答えた。使い方がわからない以上気にするも何も無かったからだ。
手足に食い込んでいた荒縄が解れた。
チクチクと縛る痛みが無くなるとストレスが減った。赤くなった箇所がむず痒いが縛られた痛みと痒さよりは随分マシだった。

「でも桔梗…女の子にしては、少し声が低いね…美人顔だし、似合ってるけど…外国ではハスキーとか褒めるんだって」

桔梗の声を聞いた野菊が少し驚いた顔をする。桔梗は野菊の勘違いに気付けば気まずそうに口を開いた。
「あっ…僕は…男…なんだ…その、女の子じゃなくて…ごめん」

一瞬の沈黙、野菊は固まった空気を解すように大きく手を左右に振ってまくし立てた
「えっ!ううん大丈夫!気にしないで!あのっ…ここのお仕事が女の子の仕事だと思ってたから!うっ、ううん!別の仕事かもしれないしね!あははっ、最近時宗様、屋敷の管理に人が足りないって言ってたし!あはははっ……あっ…でも〜…湯に入れて…髪切って…身支度して…ううん管理の仕事でも屋敷の中に入るしね!そうだよきっと!……」

まくし立てながらも野菊は表情を固まらせる。桔梗はその沈黙が少し怖かった。自分はそんなに酷い仕事に従事する事になるんだろうか?
もといこの子達はこの屋敷で表情が固まるような仕事をさせられてるんだろうか?
市場から出れた解放感が、少しずつ不穏な空気をはらんでいく。

「変な事ばっか言っちゃってごめん。もうすぐお風呂!お風呂!」

嫌な沈黙を破るように野菊は桔梗の背中を押した。整備小屋を後に湯屋の全貌が近付いてきた。

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