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花籠屋敷
第1章 屋敷入りの記憶
湯屋は檜を組み上げて作られた大きなものだった。瓦屋根の中から年季の入った煙突が湯気を大量に外に放出している。
不思議な事に竈焚きの穴が見当たらなかった…水を沸かさず、天然の温泉を汲み上げているようだ。

「ちょっと待ってて、中覗くから。お客様が入られてたら入れないし」

野菊はそういうと、檜の扉を横に開いて中へ入った。幾らかの間の後扉をずらし隙間から野菊が顔を覗かせた。
「いいよ!大丈夫!」

野菊の了解を取れれば桔梗は檜の扉の向こうへ入った。
小さな脱衣室が現れる。野菊は桔梗が入ると今入ってきた扉の鍵を閉めた

「向こうにも扉があるから、私鍵を閉めてくるね!その間に脱いで身体綺麗にしてて!」

そう言うと野菊は浴場に通じる扉を開き向こう側へと消えていった。桔梗は、言われるまま汚れた麻の服を脱いで裸になって浴場へと向かう

中には石を組み上げて作った大きな浴槽と檜の木で組まれた椅子や桶が鏡を付けた洗い場に備わっていた。
とても自分のいた場所からは想像し得ない立派な浴場に、桔梗は泥と血で汚れた身体のまま入るのに申し訳なさを感じた。

「桔梗くん!これこれ!石鹸とタオル!身体洗ってお風呂でゆっくりしてね!」

野菊は桶の中に白い石鹸とタオルを入れて桔梗の所へ歩いてくる

「のっ、野菊さん!あのっ!僕裸です!」
裸のままの状態に顔を赤面させ声が裏返る。慌てて下腹部の異性を両手で隠した。余りに間抜けな姿に顔から火が吹く…これだけでのぼせそうだ。

「あっ、ごめん!…私慣れてるからいっかと思ってたけど桔梗くんが慣れてないよね…私さっきの脱衣室で待ってるから、終わったら来て」

そう言うと野菊は桶ごと置いて脱衣室へと入っていく。桔梗は桶にお湯を入れれば頭から被り汚れを流した。
身体中を綺麗に流れるお湯が心地いい。貰った石鹸を泡立てれば頭から洗っていった。
茶色く染まった泡を流し何度も身体中泡立てて綺麗にすれば浴槽に身体を沈めた。暖かいお湯に身体を包まれると溜息が漏れる
暫くの間桔梗は温泉を楽しんだ。

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