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花籠屋敷
第6章 幕引き
二人は、桔梗の部屋で食事をする事にした。この屋敷に連れてこられてから、何も変わらない小ざっぱりしたアンティーク調の部屋。
小さな机で向かい合うようにして食事する。

「来てから、何も変えてないんだね」
野菊が部屋を見回しながら口を開く

「うん、何も持ってないし…野菊の部屋は違うの?」
野菊の言葉に桔梗は問う。此処に来てからは女中仕事ばかりで、それ以外の事を考えた事が無かった。

「私の部屋は、絵とか飾ったかな…小ちゃいけど。あとは、自分で作った飾り織りとか…機織り一家だったから」
野菊はそう答えてかき揚げを頬張った。が何か思い付いたのか箸を置いて野菊は目を輝かせる。

「そうだ、今度暇を貰えたら外に行こうよ。別邸があるんだけど、其処は街の中にあるから、別邸手伝いの馬車に乗せてもらって街に遊びに行くの」
屋敷の外…街…元々田舎育ちの上、奴隷市場行きになった桔梗には未知の世界だ。野菊の提案は桔梗にとって凄く刺激的だった。首を縦に振る。
「それ、凄い楽しそう」
「でしょ、色んなお店とか、芝居小屋とか…あと、人がいっぱい!本当に色んな人がいて楽しいわ」

楽しい想像を二人で繰り広げた。野菊の説明を桔梗は頭の中で思い描く。一度も見た事の無い世界の事を…そう楽しげな夢の中に人が足りない事に桔梗は口を開く
「石楠花も一緒だと良いね」
一瞬の沈黙…口にしなくても良い事だとは自分でも分かっていた。
だが、逃げる様にそれを忘れる振りをした所で現実は変わらない。敢えて口にする。
野菊が短い溜息をつく。諦めた様な振り切った様な…
「きっと今とは変わってるわ。きっと…」
小さな希望を込めた一言は、真昼の明るい日差しに溶けた。

「ご馳走様…野菊有難う。僕行くよ。藤丸様と約束があるから。」
昼餉を食べ終え、気持ちも軽くなると桔梗は藤丸との約束を果たしに行く事にした。今日の最後の仕事
「いつも、元気づけて貰ってばかりでごめん…」
桔梗は食台を持つと野菊に謝る
「全然!私も大体一人ぼっちだし!桔梗といると楽しいから気にしないで!」野菊は笑った。笑った後首を横に振る野菊は真剣な目で桔梗に話す
「謝らないで、私が桔梗と居たいだけだよ」
その言葉に桔梗は一言しか返せなかった
「有難う」

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