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【SS】吼える月
第1章 【5000拍手記念】運命~サクの両親~
 

 武神将になったばかりのサラは、四年に一度、神獣朱雀が守る緋陵で開かれる武闘大会で優勝を目論んでいた。

 この男は前回の優勝者ではあるが、運がよかっただけだとサラは思っていた。一番警戒しないといけないのは、青龍が守る蒼陵の国の武神将、ジウ=チンロン。彼の武術と武神将が持ち得る神獣の力は、敵なしと言われているだけに、彼女は彼を打倒するために鍛錬を頑張ってきたのだ。


 この男の存在は、完全に範疇になかったというのに。


 片耳に白い牙をぶら下げたその男が見せるのは、圧倒的な強さだった。口惜しいことに、彼は攻撃しようとしない。

 ただ躱しているだけなのに、手に負えない。息が切れるほどに、サラは動いて動いて、そして攻撃できずに体力だけを消耗していた。


 そして、男の手が伸び――。


「!!!?」



 あっという間に男の腕に入った彼女は、誰もが見ているこの武闘大会の中で、男にとどめとばかりに……唇を奪われたのだった。


「やめ……」


 何度も何度も角度を変えて、荒々しい愛の表明を見せる男に、身動きできないサラは、次第に女の顔をしていく。


「ん……んっ」


 身体が熱い。声が漏れる。

 薄く目を開けば、男が熱を滾らせた瞳を柔らかく細めている。

 不覚にもその表情に、胸が高鳴ってしまった時、男は見計らったかのように、サラの唇を割って舌を差し込み、情熱的なものに切り替えたのだった。


 未知なる甘い感覚にサラの身体は痺れ、自然と男の舌を求めていく。


 視線を交わしたまま、絡み合う舌。

 漏れるのは興奮したような上ずった声。


 身体が疼くサラは、その対処法がわからず、崩れ落ちまいと男を抱きしめるようにして、やがて無我夢中で舌を絡み合わせた。


 甘美なひとときだった。


 とくとくと奏でる鼓動の音。この男の……ハンの情熱に飲み込まれたかのように、胸の奥に熱さを感じながら。


 奪われたのは、唇か、心か――。


 
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