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×アリエナイカノジョ×
第9章 ◆ Scene01
 
 扉まで一メートルを切り、紗英の表情が一層引き締まる。

「落ち着けば大丈夫…紗英はやれば出来る子……」

 男の欲望を奮い立たせるに違いない、自らの煽情的な体勢など頭の中には無かった。

 ただ、開いた扉の前を通り、この教室の前を過ぎるだけの事に集中していた。

 耳を澄ましても、新校舎を通り越したグラウンドで部活に励む生徒の声は聞こえても、件の教室からは物音が聞こえない。

「…よ、よし……」

 暫し止まっていた四肢を再び動かし始める。

「もう…後戻りは…出来ない………」

 気分も昂ぶっていった。

 ゆっくりと近付く扉。

 何故か、額から汗が滲み、頬を伝って床へと滴り落ちる。

 揺れる深い胸の谷間も熱さを帯びて蒸れる。

 ノリノリの気分に体も反応させる紗英は、役者をやらせれば主演女優賞でも狙えるかもしれない。

 硬い廊下の床の感触を掌と膝に感じながら、とうとう扉の脇へと到達したのだった。
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