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×アリエナイカノジョ×
第10章 ◆ Scene02
 
「…そうだよ?」


…道理でお母さん…名前言わなかった訳だ…
…アタシだって…未だに思い出せなかったりするし………


 名前も伝えられず行けとしか言われなかった事に納得する美穂。

 ましてや表札も苗字は掠れ、辛うじて住所が判別できる程度。

 この昭和初期を彷彿させる佇まいを見せた平屋の建物が影人の家だと言う事に、美穂は僅かな驚きを覚えていた。

「まぁ、お爺ちゃんの家から通わせて貰ってるだけなんだけどね」

 美穂の心中を察したのか、影人は訊かれずとも言葉を吐き出した。

「あ、あぁ。そうなんだ。…っと…これ」

 影人の私生活の一部を見た事に戸惑い続けていた美穂は、漸く本来の目的を果たした。

「もし、何なら…少し上がって………」

「あ、有難いけど…もう帰らないと…ね」

 長時間待たせていたであろう美穂を気遣った影人。

 しかし、時間も時間だけにやんわりと遠慮した美穂だった。

「そ、そうだよね。あは…は」

 乾いた笑みを溢し、照れ臭そうに頭を掻いた影人だったが、美穂は次の瞬間に小首を傾げるのだった。
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