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金木犀
第2章 意中之人

それにしても本当に今日はどうしたんだ。
いつも颯太の野郎は誰でも彼でもしっぽを振って、すぐに懐くような性格をしているのに、今日は随分と警戒している。
まさかとは思うが、嫉妬をしているわけじゃないだろうな。
いやいや、気持ちの悪い想像をするな、俺。
颯太じゃあるまいし。

「おい、どうかしたのか?」

「んん?何かしたかな?」

彼女も颯太の様子がおかしいことに気づき、心配そうな顔をして、颯太を覗き込んだ。
みんなが自分に注目していることに気づいたのか、いつものようににっこり笑った。

「何でもないよー」

「んー……本当かな?大丈夫ならいいんだけれど」

じゃあね、といって、二人組は教室を去っていった。
颯太はしばらく手を振って、二人の姿が見えなくなると、少しだけ険しい顔をした。

「あの子……思ったよりも早かったな──」

「はあ?何なんだよ」

「あの子は駄目だ……。いい子なのだろうけれど、あの子は──」

「おい!」

「え……?」

颯太は独り言をやめ、俺の顔を見るなり、ぽかんと口を開いた。
どうやら自分が独り言を言っていたことにすら気づいていない様子だった。
誰が見ても作り笑いだと分かってしまうような笑みを浮かべて、何でもないと首を振る。
何か無理をしているのだろうか。
やっぱりあの子たちに何か──

「颯太!」

またも俺たちの前に現れたのは、颯太の彼女である、桐壺紫苑(きりつぼしおん)だった。
少し茶系で癖のついた髪をツインテールにくくり、大きな目をくりくりさせて颯太を見ている。
御影の容姿が美しいに当てはまるなら、確実にこの子はかわいいに分類に入るだろう。

俺と目が合うなり、にっこり笑う。

「こんにちは翔夜くん。ところで颯太はどうしたの?」



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