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金木犀
第2章 意中之人
俺がいなくとも、二人で会話は成立しているし、ファストフード店に居座っているという状況があまり好きではないものだから、早く帰りたかったのだが、帰ったところでやることがないので、どうしたものかと迷っていた。
正直、いつまで続くか分からないドラえもんの秘密道具の話は、聞いているだけで苦痛である。でもまあ、『夢たしかめ機』なる謎の道具があったなど知らなかったので、為になったといえばそうなのだが(正直どこで使ったらいいのか困る知識でもあるが)、このままいるのもありかもしれないと思い、すっかり溶けてしまったシェイクを口にしたとき、制服のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話がメールを受信した。
随分と居座っているから、時間は経っていると思ってはいたのだが、まさかもう三時になっているとは思っていなかった。
急いでメールに返信をして、飲み終わったシェイクの紙コップを持ち、席を立つ。
「翔夜くんどっか行くの?」
「ああ、父さんが仕事を手伝って欲しいらしい」
「そっか。分かった。またね」
紫苑はにっこり笑って手を振った。颯太も同じようにしている。
そんな二人を横目に見て、特に罪悪感も感じることなく、急いでその場を去った。
父親の手伝いなんて勿論嘘だ。
俺の父親は北海道に出張している上、俺が手出し出来るような、簡単な仕事などしていない。
俺にはあいつらよりも大事な用事があった。
本来ならば、俺の家で集まる予定だったのだが──仕方ない、あいつの家まで行くことにする。
俺の家とあいつの家はなかなかに距離があり、このファストフード店からは、あいつの家の方が近かった。
そもそも既に遅刻してしまっているのだ、そんなことで怒るような性格ではないことくらい知っているが、しかし、それでも急いでいかないと、悲しませているかもしれない。
この時間ロスは、いつかあいつらを殺すことでかたをつけることにして、あいつらに見つからないように慎重に道を選んで、目的地へ向かった。
こういうとき、自転車通学ならばどれだけ良かっただろうと、何度後悔したことだろうか。
しかし、そんなことを考えている暇はない。
あいつを悲しませたくないという気持ちもあるが、俺が早く会いたい気持ちの方が大きい。
全く、笑ってしまう。こんなにも、たった一人の命をこの手で奪いたいと思ったことはない。