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金木犀
第3章 悪因悪果
彼女──御影椿と会ったのは、今から半年ほど前、夏休みが終わり、皆がまだ休み気分なまま、ぼんやりと学業に励んでいる九月のことだった。
彼女が転入してきたのは七月の初めの頃で、なんとなく日々をぼんやりと過ごして、夏休みに対する期待が高まっていた時期に、朗報のように学年中に広まった。
『才色兼備の女の子が転入してきた』
その当時、イライラしながら日々を過ごしていた俺の耳に飛び込んできた噂話。しかし、きっとこういう噂話は根も葉もないものであり、実際は才色兼備とはかけ離れた存在に違いないと思いながら聞き流していた。
勿論、颯太も同じクラスだったわけなのだから、その噂話を耳にしていたことだろう。
俺がこの時に颯太の顔をちゃんと見ていたら、少しくらい運命は変わっていたのかもしれないが、俺がこのことに気づくのはもう少し後の話である。
ともかく、期待の転入生として学校にやってきた御影は、才色兼備という四字熟語が非常に似合う女の子だったと記述しておこう。
まさか後に彼女と付き合うことになろうとは、微塵も思わなかった。
まあ、彼女と付き合ったことがいい思い出とはいい難いのだが。
その頃の俺にとっては、『才色兼備と噂されている、可哀想な転入生』としか認識されていなかった御影なのだが、九月に入った後、がらりと印象が変わった。
いつものように、図書館で自己満足の日記のようなものを付けていた時だった。
ノートの半分が、イライラすると殺したいで埋め尽くされ、ああ、しまったな、またノートの無駄遣いをしてしまったと後悔しながら、その、イライラすると殺したいで半分を占められている、逆にいったらまだ半分書けるページを破ろうかと考えていた時だった。
「そんなにイライラしているの?」
と、頭上から声がした。
ばっと後ろを振り返ると、肩辺りにまで切りそろえられた綺麗な黒髪を、耳にかけてにっこり微笑んでいる彼女の姿がそこにあった。
彼女は何の躊躇いもなく、俺の隣の席に腰を下ろした。
「…………」
「ああ、ごめんなさい。急に話しかけたから、びっくりさせちゃったかな?」
顔の前で手を合わせて、上目遣いでこちらを真っすぐ見る彼女に、内心警戒を抱いたことは否定しない。