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金木犀
第3章 悪因悪果
「それに、翔夜だって、千里と仲良くなりたいでしょう?」
「いや、俺は別に──」
「仲良くなりたいでしょう」
「…………まあ」
「うんうん。千里可愛いもの」
彼女はそれが当たり前のように、友達のことを褒めていたのだが、今から考えてみると、この褒め言葉は本心ではなかったのだろう。彼女は水無月千里という女を利用していただけではないのだろうか。
この時の彼女はどんな顔をして、俺にそんなことを言ったのだろうか。
今となってはもう確かめようがないのだ。
それから小一時間ほど彼女の家に居座り、俺は日が暮れて少し経ってから、家へ帰ることにした。
彼女は泊まっていくよういっていたのだが、家で飼っている猫が心配だといって、帰った。
本当はペットなんていない。
このころから──いや、もっと前からあっただろう、彼女に時折抱く違和感や不快感から逃げ出したくって、ペットを飼っていると嘘をつくことにしていたのだ。
彼女は断れないだろう。
彼女のそのキャラクターでは断ることは出来ないだろう。
そう考えての作戦だった。
そのころは自分の抱いていた感情に名前をつけられなかったので、ただ何となく、家に帰りたいと思うだけだった。
彼女と一緒にいたくないという、強い意志のようなものはなかったのだが、結果として、この行為に救われた。